野口研究所における触媒材料研究は、1992年8月に旭化成との共同研究としてスタートしました。 21世紀に向けて化学産業界が推進するグリーン・サステイナブル・ケミストリー(green & sustainable chemistry : GSC)運動の 一翼を担うことを目的に、触媒として魅力的な材料を開発し その特長を活用できる反応プロセスを探索するシーズオリエンテッドの研究に着手しました。以下にこれまでの研究のトピックスを振り返ります。
1.メソポア分子ふるいの合成
当時ゼオライトに比べ触媒としての展開が未知であったメソポア分子ふるいをターゲットに、温和な条件下でテンプレートを取り除くことが可能な新規なテンプレート、長鎖アルキルアミン-N-オキシドを用いる合成法を見出しました。メソポア分子ふるい内の空間は3nm前後の単分散細孔からなり、比表面積は1,000m2/gに達します。-40℃近い温度でも吸着水は氷結しないので、氷結による構造破壊も起こらない一方、耐熱性も良好です。
また、ケイ素に直結した有機基を有するアルコキシシランを合成段階で加えることにより、無機有機ハイブリッドメソポア分子ふるいの合成に成功しました。アルキル基などの炭化水素基の導入は細孔壁の疎水性を向上させ、Si-O-Si構造の加水分解を抑制すること、アミノ基などの配位能のある有機基を導入すると固体金属錯体触媒への応用が拓ける等の点を明らかにしました。(野口研究所時報 第43号 P.25-37 2000) 2.シクロヘキセンの二重結合部酸素化触媒
シクロヘキセンは酸素酸化ではアリル位が選択的に酸素化され過酸化物(cyclohexene-3-hydroperoxide)が生成し、過酸化水素酸化ではアリル位と二重結合部両方の酸素化が起こります。このシクロヘキセンの二重結合部を選択的に酸素化する触媒を検討しました。
メソポア分子ふるいの合成段階でチタンなどの遷移金属化合物を加えると遷移金属化合物を高度に分散した状態で含有するメソポア分子ふるいが得られ、これらのメソポア分子ふるいにシクロヘキセンの過酸化水素酸化活性が存在することがわかりました。これらの触媒を用いた二重結合部の選択的な酸素化プロセスを開発しました。 3.燃料電池用水素精製触媒
自動車用のクリーンエネルギーである水素エネルギーに関する研究として、PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)型燃料電池用の燃料水素に含まれる電極触媒毒、一酸化炭素(CO)を選択的に酸化除去する触媒の開発に取り組みました。自動車は氷点下30~40度の寒冷地においても短時間で起動することを要求されますが、電極触媒の白金へのCOの吸着量は低温ほど増大するので低温ほど徹底したCO除去が必要です。この問題を解決するために、ハイブリッドメソポア分子ふるいにナノサイズの貴金属粒子を担持する方法を見出し、低温起動特性の優れた触媒を開発しました。この触媒は氷点下で起動し、水素中の1%のCOを1ppm以下に低減することができます。この触媒を組み込んだ燃料電池の小規模試験では、触媒の優れた性能が実証されました。(野口研究所時報 第42号 P.15-25 1999)
4.フルオラス超ルイス酸触媒
(1) 長鎖ペルフルオロアルキル基を有するビススルホンアミド (RfSO2)2N- およびトリススルホンメチド (RfSO2)3C- を配位子とする希土類錯体や4,14,15族金属錯体(超ルイス酸)が、エステル化反応、アルドール反応、Diels-Alder反応、Friedel-Craftsアシル化反応、Prins反応といったカルボニルの活性化に基づく種々反応の優れた触媒となることを見出しました。またこの超ルイス酸触媒がペルフルオロアルカン等のフルオラス溶媒に溶解し、有機溶媒に難溶であることを活用し、有機/フルオラス二相系での反応を行い、反応後に超ルイス酸を含んだフルオラス相を溶液ごとリサイクル使用できることを見出しました。
(2) 上記フルオラス二相系反応を流通系で連続的に行うプロセス開発を行いました。リアクターおよびデカンターを有する反応装置を用い、リアクターで反応後の溶液をデカンターで相分離し、比重のより大きいフルオラス相を重力によってリアクターへ返すシステムを開発しました。このシステムをベンチスケール(写真)で実証し、TON >20,000という極めて高い値を達成しました。 (3) フルオラス修飾されたフルオラス逆相シリカがフルオラス化合物を容易に吸着することに着目し、超ルイス酸をフルオラス逆相シリカに担持させた触媒を開発しました。この担持触媒は、有機相のみならず水相での反応に用いることができ、低濃度(ca.0.5%)過酸化水素水中でのBaeyer-Villiger反応で高い活性を示しました。反応後、濾過することによって容易に触媒のリサイクルも可能であることも明らかにしました。 (4) 近年、C8のペルフルオロカルボン酸(PFOA)やスルホン酸(PFOS)が高い生体蓄積性を有することが明らかになってきました。そこで環境に配慮した改良品としてエーテル基含有ペルフルオロアルキル基を有する触媒を開発しました。この新触媒は従来品よりリーチングが少なく、フルオラス溶媒への溶解度も高いという、優れた特徴を有することが明らかになりました。また、大気中への放出リスクが小さい、より高沸点(200℃前後)のフルオラス溶媒を用いたFBS反応を行い、十分適用可能であることを示しました。 (野口研究所時報 第45号 P.17-24 2002、第49号 P.39-42 2006) 5.ディーゼル排ガスNOx浄化触媒
ガソリン車に比較して酸素濃度が高く(リーンバーン条件)、ガソリン車用排ガス触媒を用いることができないディーゼル車の排ガス中のNOxを、軽油を還元剤として浄化するための触媒研究を行い、排ガス温度が低いディーゼル車排ガスに対応したメソポーラス担体を使った低温活性が高い触媒の開発に成功しました。
また、触媒に中高温活性化処理を施した触媒と低温活性化触媒を組み合わせることによって180℃から240℃までの温度領域でNOx浄化性能をアップできることを見出しました。
6.燃料電池用非白金系電極触媒材料
エタノール酸化電極触媒として、非白金系の多孔性配位高分子(MOF:Metal-Organic Frameworks)に着目して、電極触媒として応用する研究に取組みました。配位高分子の一種であるルベアン酸銅を種々合成し、そのにエタノール酸化活性などを評価しました。電気化学的測定、ルべアン酸とエタノールとの相互作用計算などからエタノール水酸基のプロトン脱離を開始することが示唆され、貴金属を使用しない触媒としての可能性を示すことができました。
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