公益財団法人野口研究所

研究概要・成果Outline / Result

研究テーマの紹介:Bチーム

抗体の位置選択的な修飾による抗体薬物複合体の創製

1. はじめに

 近年、新しいがん治療薬として抗体薬物複合体(ADC)が注目されています。その構造は抗体分子にリンカーと呼ばれる部分を介して化学療法剤であるペイロード(抗がん剤など)を共有結合させた分子量約15万の糖タンパク質です。このADCを合成するために、抗体分子にペイロードを導入することが必要不可欠となりますが、その手法として現在では主にリジンやシステインといったアミノ酸の側鎖にペイロードを結合させる方法が一般的に使用されています。しかしながら、抗体内には複数のリジンやシステイン残基が存在するため、これらの方法では薬物結合部位及び薬物搭載数の制御が困難であり、薬物抗体比(DAR)や薬物分布(DOP)が不均一なADCが得られてしまいます。このような薬物導入数の異なるADCは、体内での安定性や活性が異なるため品質管理や薬効、安全域の観点からDARやDOPが制御された均質性の高いADCが望まれています。そこで我々のグループでは以下に示した2種類の方法を用いてADCの合成にチャレンジしています。

2. N3-PEG化糖オキサゾリンを用いるADC合成法

 我々は図1に示したようにペイロードを抗体へ位置選択的かつ導入薬物数を制御して導入することができるN3-PEG化糖オキサゾリンの開発に成功しました。このオキサゾリンを用いることでネイティブな抗体(Intact mAb)に対してENGase存在下、one-pot反応でADC前駆体へと変換することができ、従来法で必須であった糖鎖トリミングの工程を省略することが可能となりました。
 さらにこの手法によって合成したADC前駆体に対してクリックケミストリーを用いてペイロードを抗体へ導入することで均一なADCを合成することに成功しました。このADCを用いてがん細胞に対しての細胞殺傷能力についても評価した結果、このがん細胞のみに殺傷効果を有し、ADCとしてきちんと機能することが明らかとなりました。

N3-PEG化糖オキサゾリンを用いるADC合成法
【図1】
3. ピラゾロンを用いるADC合成法

 ピラゾロン誘導体は温和な反応条件下でホルミル基(アルデヒド)と複合体(ピラゾロン―ガラクトース複合体)を形成することが知られています。この反応をADC合成に利用することでDARが8のADCを簡便に合成することができるようになります。具体的には、ガラクトースの6位ヒドロキシ基を選択的にホルミル基へと酸化する性質を持つガラクトースオキシダーゼ(GAO)を用いて、原料となるG2抗体の糖鎖末端のガラクトース残基の6位をホルミル基へと変換し、このホルミル基に対して2分子のピラゾロン化合物が複合体を形成ることで簡便かつ位置選択的にDAR8のADC合成を可能になります。

ピラゾロンを用いるADC合成法
【図2】

 ただし、一般的にピラゾロン―ガラクトース複合体は生体内で不安定であり速やかに分解してしまうため、あまりADC合成には適していません。しかしながら、我々のグループではピラゾロンに電子求引基を導入することにより、生体内でも安定に存在する可能性を持つピラゾロン―ガラクトース複合体の構造を見出すことに成功しました。現在、そのピラゾロン誘導体を用いたADCの合成に向けて種々検討を行っています。