前立腺癌特異的な糖鎖構造をもつPSAを検出することによる新しい前立腺がんスクリーニング
前立腺特異抗原(PSA)は前立腺のみで生成される糖タンパク質です。正常では血液にほとんど存在しませんが、前立腺に炎症やがんが発生して組織が破壊されると血液中に漏出します。したがって血液中にPSAが検出された場合前立腺に病変が起こっていることがわかるため、前立腺癌のスクリーニングとしてPSA検査が行われています。しかし、PSA血中濃度が10ng/ml以下の場合は前立腺肥大と前立腺癌の区別は困難となります。そこでPSA上の糖鎖構造を利用して癌をより精度良く検出する方法が開発されてきました。その方法の多くは正常細胞でも合成されているが癌細胞で増加する糖鎖をターゲットにしています。これらの方法はPSA濃度を測定するPSA検査よりは精度が向上しますが、不十分であるため他の検査などと組み合わせることも考案されています。
私たちは前立腺癌患者血液中に、正常細胞由来PSAでは報告されていなかった糖鎖構造をもつPSAの存在をMALDI-MS解析で明らかにしました。その構造は、前立腺癌細胞株や前立腺癌組織から作成したスフェロイドで発現している3本鎖骨格構造に、前立腺癌で増加すると報告されているLacdiNAc構造を有するものです。この前立腺癌特異的な糖鎖構造をもつPSAを検出することで前立腺癌と前立腺肥大をより精度良く識別できる可能性があると考え出願しました。血液検査のみで前立腺癌のスクリーニングができれば、不要な生検を減らし患者さんの負担が少なくなります。