公益財団法人野口研究所

研究室の紹介Laboratory

ADC足場剤合成

 近年、品質管理や薬効、安全域の観点から薬物抗体比(DAR)や薬物分布(DOP)が制御された均質性の高い抗体薬物複合体(ADC)が望まれており、その製造技術の開発が必要とされています。ADCの合成、すなわち抗体への薬物導入の代表例としては抗体分子中のアミノ酸に対して薬物を結合させる方法であります。しかし、この手法では薬物結合部位及び薬物搭載数の制御が困難であることから、DARやDOPが不均一なADCが得られることが問題となっています(図1)。最近では抗体のヒンジ領域近辺のジスルフィド結合を還元することで発生させたシステインの側鎖にマレイミド法で薬物を結合させる方法が用いられ、DARやDOPの均一性は改良されつつありますが、このチオール-マレイミド結合は可逆反応であり、血漿中で薬物が遊離する可能性が危惧されます。またヒンジ領域近辺以外にシステインが存在する抗体の場合はDARの制御が困難になることも予想されます。

ADC足場剤開発

 薬物結合部位及び薬物搭載数の制御が可能なADC製造技術として、抗体中の糖鎖を利用する方法が報告されています(図2)。例えばアジド化糖を有する糖ヌクレオチドや、鶏卵由来の糖鎖から合成したアジド化糖鎖オキサゾリンをアジド基導入試剤として用いることで抗体上に薬物搭載用官能基を導入する方法です。しかしこれらのアジド基導入試剤は安定性や量的供給に問題があります。また従来法では抗体中の糖鎖上に薬物搭載用の官能基を導入するために、①加水分解酵素による糖鎖トリミング工程、②転移酵素による官能基化糖プローブ導入工程、以上の2つの工程が必要でありました。

ADC足場剤開発

 我々は位置選択的かつ導入薬物数を制御できるADC合成用ツールとなるアジドPEG化糖オキサゾリン誘導体(図3の化合物2)の開発に成功しました。このアジドPEG化糖オキサゾリン誘導体は化学的に安定、かつ大量合成可能な完全化学合成品であります。また、このアジドPEG化糖オキサゾリン誘導体を用いることで、糖加水分解酵素であるENGase存在下でネイティブな抗体に対してone-pot反応でアジド基を導入できること、すなわち従来法では別々に行う必要があった「糖鎖トリミング」の工程と「官能基導入」の工程を同時に行えることが可能となりました(図3)。

ADC足場剤開発

 本研究の成果により、従来のADC合成における技術的な課題を解決することかできました。また本技術は幅広い抗体に適用しうる汎用性の高い手法であり、ADC製造のプラットフォーム技術になりえるものと期待しています。

関連特許

特許第7144643号「ポリエチレングリコール鎖を有する糖化合物、及び抗体薬物複合体の前駆体」