糖鎖の話をするときには、どんな糖鎖の話をしているのかを伝える必要があります。特に正確な糖鎖構造を伝えるには、双方が共通して理解できる方法が求められます。会話や文章では、例えば「スクロース」などの名称を利用することができます。しかし、糖鎖の名称は多くの人が共通して知っている種類は少なく、また、名称で伝えることができない糖鎖構造も多く存在しています。このような問題を解決するための一つの手段として、糖鎖構造を描いて相手に伝える方法があります。ここでは、糖鎖科学においてよく利用されている「糖鎖の描き方」について紹介します。
糖鎖は単糖と単糖をつなげることで表すことができます。糖鎖の描き方としては、2つの方法が広く知られています。一つはIUPAC(国際純正・応用化学連合)とIUBMB(国際生化学・分子生物学連合)により定義された方法[1]です。この方法では、糖鎖を元素記号と化学結合を用いた化学構造式で表します。
もう一つの方法は、糖鎖科学の分野においてよく用いられている単糖を記号で表した方法です。この方法は、糖鎖生物学の教科書である「Essentials of Glycobiology, 4th edition[2]」でも利用され、Symbol Nomenclature for Glycans (SNFG) [3, 4]と呼ばれています。SNFGでは非常に多くの単糖について記号を定義しています。単糖の各記号には標準とする化学構造式が定義されていますが、標準以外の化学構造式の単糖を描くときはその情報を記号に描き加えます。例えば、6員環構造を標準としている記号に対して5員環構造であることを表すためには、記号に「f」を描きます。そして単糖の記号を線でつなぐことで糖鎖構造を表し、単糖を繋ぐ結合の情報については繋いだ線付近に描きます。例えば、SNFGでスクロース(ショ糖)を表すと以下のようになります。