糖鎖とは単糖どうしが鎖のようにつながっている物質の名称です。皆さん、「糖」と聞いてどんなイメージを思い浮かべるでしょうか?多くの方が「お砂糖」、「美味しい」、「甘い」とお答えになるかと思います。皆さんがスーパーなどで購入する「砂糖」の主成分はショ糖(スクロース)という甘味物質(かんみぶっしつ)です。美味しく甘いですね。
このショ糖、実はブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)からなる糖鎖なのです。
ショ糖は口に入れると舌の表面の味蕾(みらい)というごく小さな器官と接触します。そうすると味蕾の中の甘味細胞(かんみさいぼう)がもつ甘味受容体(かんみじゅようたい)というタンパク質が刺激されます。この刺激によって脳に「甘い!」という信号が送られ、口にしたものを美味しく楽しめるのです。甘味受容体に受容されるショ糖は「甘い糖」の代表選手です。
因みに、ショ糖の甘さを100とすると、ブドウ糖は70前後、果糖は150前後といった甘さを呈します。
一方、我々の体内に存在している糖鎖の多くはショ糖よりも多くの種類の単糖で構成されており、複雑な構造になっています。これらの「甘くない」糖鎖は生命現象に深く関与している重要な物質であるということが明らかにされつつありまが、どんな糖鎖がどんなことに関与しているのか?ということについては、まだまだ未知の部分が多いのです。
タンパク質や遺伝子の研究分野と比較して、糖鎖研究では十分な量の「標品」の入手が難しく、また、ターゲットとなる分子の構造情報も揃ってはいません。糖鎖というものは例えば遺伝子の様に容易に増幅することはできませんし、タンパク質の様に大腸菌や動物細胞等を宿主として大量に合成することもできません。複雑な構造を持つ糖鎖の解析は容易なことではなく、現在でも世界中で多くの研究者が苦心しながら研究に取り組んでいます。
生命現象の謎をひもとくために大変重要な研究領域ですので、携わる研究者達にとって糖鎖は決して「甘くない」のです。